[camera] Lightroom/Camera RawがEOS 5D Mark IVのRAWフォーマットに対応

2016年9月20日付で、AdobeのLightroomおよびCamera RawがEOS 5D Mark IVのRAWフォーマットに対応しました。(→公式blogのアナウンス)

素晴らしいことに5D Mark IV独自のDual Pixel RAWフォーマット(DPRAW)にも対応していて、読み込み、編集とも可能です。ただし、上記アナウンス記事もあるとおり、

We do not support any specific dual pixel raw functionality.  If you are planning to use Dual Pixel raw files, please read Limitations with Canon Dual Pixel raw files in Camera Raw and Lightroom. 

ということで、DPRAWの独自フィーチャーである「解像感補正」「前ボケシフト」「ゴースト低減」についてはサポートしない、ということで、これらの機能を使う場合にはまずキヤノン純正のDigital Photo Professional (DPP)で適用した上でTIFFファイルでエクスポートしてそれをLightroomに取り込む必要があるということです。

まぁ想定内というか、これらの機能のためにLightroomに専用のUIを追加する、ということも考えにくいわけで、そりゃそうかなという感じです。FUJIFILMのフィルムシミュレーションのように特定メーカーの独自の機能に後から対応したというケースもありますが、あれはRAW現像プロファイルを選択するという既存のUIの延長で対応できたから、ということなんでしょうねぇ。

当面、DPRAWで撮るだけ撮っておいて通常はLightroomに閉じて運用、どうしても必要になった時だけDPPで加工して結果をLightroomに取り込み、という方向で行こうと思いますが、使う機会が本当にあるかどうかはちょっと微妙な気がしなくもありません。

さて、せっかくRAW現像がいつもの環境でできるようになったので、先日六本木から表参道にかけてテストに出た時の写真をもう一度引っ張り出していくつか試してみました。

まず、前回の記事でJPEGでも結構シャドウのディティールが残ってる、みたいな話をしたサンプルから。JPEGの再掲とRAWでハイライトとシャドウを救ったバージョンです。

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straight JPEG
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developed by Lightroom

RAW現像側のシャドウはもっとバリバリに起こせるのですが、まぁ起こせるよ、ということが分かれば、という程度にしていますのでサムネイルレベルだとあまり違って見えないかもしれません。(ホワイトバランスも少しいじっているのと、カメラ撮って出しだとほぼ完璧に修正されているフリンジがRAWでは残っているのでそこも合わせてLightroom側で補正しています)

 

さらにLightroomからいつも使っているSilver Efex Pro 2に持っていったもの。

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EF24-70mm f/2.8L USM II (24mm), 1/40 sec at f/4.0, ISO160, edited with Silver Efex Pro 2

いつものツールが使えるようになるとひと段落というか、多少落ち着いてくるところがあるのですが、そうなると今度は本格運用に投入したくなるわけで、飽きもせずに同じようなサイクルを繰り返すことになります。

続いてTonality Proに持っていったもの。

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EF24-70mm f/2.8L USM II (24mm), 1/40 sec at f/2.8, ISO160, edited with Tonality Pro

 

こちらはいつだったかものすごい割引があった時に購入して、とりあえず持っているだけ、という状態だったのですが、色々ドライブがかかっているこのタイミングで引っ張り出してみました。できることはSilver Efex Pro2とそんなに変わらない感じですが、こちらの方が「仕上がりのイメージ」から発想した感が強く「Instagramっぽさ」がより濃厚な感じです。もちろん追い込もうという時にはしっかりと突っ込んでチューニングできる懐の深さもあるので、もしこちらに先に出会っていたらこちらを常用していたかもしれません。

 

最後に、Analog Efex Pro 2。Silver Efexと同様、ちゃんとお金を払って使っていたら開発元がGoogleに買収されて無償化されるという微妙なことになってしまったのですが、さすがにGoogleが買い取るだけあってしっかりした技術に裏打ちされたナイスなツールです。あまり使い込んでいないのでそれこそInstagramみたいになってしまいますが、そういう手遊びも適度に織り込みつつ、ちょっとカメラの話が続いたのでそろそろ映画のことも書こうと思っています。

 

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EF50mm f/1.2L USM, 1/200 sec at f/1.2, ISO100, edited by Analog Efex Pro 2

[camera][exhibition] EOS 5D Mark IV @ 東京国立近代美術館

東京国立近代美術館の『トーマス・ルフ展』に行ってきました。リンク先の公式サイトによれば、

トーマス・ルフ(1958年ドイツ、ツェル・アム・ハルマースバッハ生まれ)は、アンドレアス・グルスキーやトーマス・シュトゥルートらとともにデュッセルドルフ芸術アカデミーでベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻に学んだ「ベッヒャー派」として、1990年代以降、現代の写真表現をリードしてきた存在です。

ということで、「アートとしての写真」方面にはまったく疎い私でも名前くらいは知っている大御所的な存在ですが、本展は日本で初めての本格的な回顧展として、代表的なシリーズから数点ずつ、網羅的に集めており、非常に見応えのある展示になっています。

個人的には「高度に発達した現代アートは何だかよくわからない」派なので、近年の作品群についてはうまく受け止めることも言葉にすることもできないのですが、デュッセルドルフ及びその近郊のごく普通の建造物を撮影した「Houses」シリーズや、彼の身近な人々の住む家の内部の諸々を自然光でありのままに写す「Interiors」シリーズは、本当に何気ない被写体ばかりでありながらも、奇妙に響いてくる作品がさりげなく混入していて、まさにそういう体験がしたくて写真展に来ているんだ、というそのものズバリの感動がありました。

図録も買って、二階の簡易カフェテリアみたいなところでパラパラと眺めてたんですが、やっぱりプリントと印刷では色合いが違っていて、やはり現物を見ないと分からないものがあるなぁ、と。良い悪いとはまた別の軸かとは思うんですが、今回、私が気に入った作品について言えば、プリントの方の色合いの方が明らかに好みに合っていてしっくりくるんですね。ちなみに、図録と合わせて、その作品が収録された写真集も眺めてみたんですが、そちらもやはりプリントとは少し違っていて、まぁある意味、わざわざ足を運んで実物を見に来た甲斐があった、ということで良いのかもしれません。

***

さて、今日もEOS 5D Mark IVを持ち出していて、カラーで撮っているのにモノクロっぽくなる天気の中、あわよくばEOS 5DS Rと実写比較を、と思っていたんですが、第一目的地の美術館に思わず長居してしまって時間がなかったのでそれはまた改めて。ただ、手持ちで適当に比べた感じだと、画素数の差から受ける印象ほどに、解像感には大きな違いは出ないように思えます。あとは5DS Rの方がほんの気持ちくらい、色が濃く出るかなぁ、という気もしますが、このあたりはもう少し確認しないとなんとも。とりあえず手持ちなので厳密な比較にはなりませんが(構図もピント位置もずれてる)、設定はすべて揃えてDigital Photo Professionalから素現像した写真を1組だけ。

どちらもEF24-70mm f/2.8L II USM(焦点距離50mm)で、ISO100、f/4の1/50 secで撮っています。現像時に適用したピクチャースタイルは「ディティール重視」からコントラストを-2、色の濃さを-1したものです。

(※どちらもクリックすると原寸画像が開きます)

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EOS 5DS R
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EOS 5D Mark IV

 

ちゃんと比べるならやはり三脚くらいは出さないといけないんでしょうね。

[camera] EOS 5D Mark IVによるJPEGサンプル

前回のエントリに引き続き、EOS 5D Mark IVのJPEG撮って出しのサンプルです。六本木の国立新美術館から明治神宮前までぶらぶらと歩きながら撮った写真ですが、例によって個人的な嗜好によりアンダーに偏っているので、あまり「作例」などと胸を張れるものではないのですが、とりあえず。

(※以下、写真をクリックすると原寸画像が別ウィンドウで開きます。)

 

まず国立新美術館、2Fから階下のカフェスペースを見下ろしたところ。EF24-70mm f/2.8L IIの広角端で、開放です。(なので左奥の方はちゃんと写っていません)

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EF24-70mm f/2.8L II USM at 24mm, f/2.8, 1/40 sec, ISO200

この日は曇っていて窓から入る光があまり強くないのですが、何となくハイライト側の描写が従来機と違っているように感じます。ちなみにピクチャースタイルは「ディティール重視」をベースに、そこからコントラストと色の濃さを1レベルずつ落としています。5DS Rと比べると画素数はかなり少なくなるのですが、実写では(ある意味当然ながら)解像度に不足は感じません。

次も同じく、国立新美術館の中で、同じくEF24-70mm f/2.8LL IIの広角端、ただし今度はf/4に絞っています。

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EF24-70mm f/2.8L II USM at 24mm, f/4, 1/60 sec, ISO100

まぁ見てのとおり露出アンダーでアレですが、実はこの撮って出しのJPEGでも結構暗部が残っていて、このまま持ち上げていくと天井面の細かい筋がしっかり見えてきます。Lightroomではまだ扱えないので未確認ではありますが、RAWファイルならもっと頑張ってくれそうな期待感があります。

続いて国立新美術館から少し歩いて表参道方面。またEF24-70mm f/2.8L IIの広角端です。ちょっと深みのある「色」がどう写るか、というテストです。

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EF24-70mm f/2.8L II USM at 24mm, f/2.8, 1/40 sec, ISO160

私はデジカメ自体、キヤノンからスタートしているので刷り込み的な話もあって元々キヤノンの色が好きなんですが、そういう意味でもこのMark IVは正常進化というか、同じ血統だなぁという感じ、個人的には非常に好ましい限りです。一方、このショットには入っていませんが、キヤノンのカラーレンダリングの長短を考えた時の「短」の方にくる、木の葉の緑とかの色褪せとかくすみ感も相変わらずです。ただ、今回のオートホワイトバランスの「ホワイト優先」はちょっと試した限りでは好みに合いそうなので、もう少し模索が必要な気がしています。

さらに移動して「東急プラザ表参道原宿」のエントランス。これもEF24-70mm f/2.8L II広角端です。色々撮ろうと思って出発しても、一番最初に好きなレンズを着けていってしまうとえてしてこういうことになってしまいます。

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EF24-70mm f/2.8L II USM at 24mm, f/4, 1/30 sec, ISO160

この階段はある意味、定番スポットといってもいいんじゃないかというほどよく見かける被写体なんですが、自分で撮るのは今回が初めてだったりします。なにせ他の用事がない場所なので、多少撮ってみたいと思っていても、そのためだけに原宿方面、というのはなかなか足が向かないわけですが、こういうメジャーなポイントに限らず、もう少し頑張って出かけてみるべきなのかもしれません。

もう一枚、同じところで、今度はEF50mm f/1.2Lの開放で。

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EF50mm f/1.2L, f/1.2, 1/160 sec, ISO100

ちなみにJPEG撮って出しと言いつつ、5D Mark IVではDIGIC 6+のパワーもあって、デジタルレンズオプティマイザを始めとして、カメラ内で各種の補正がかけられるようになっています。とりあえずここでは色収差と回折の補正だけONにしているんですが(周辺減光はむしろwelcome)、一点注意が必要なのはDPRAWで撮影しているときはデジタルレンズオプティマイザはONにできない、ということでしょうか。

最後、帰る直前、地下鉄への階段を下りながらの一枚です。こちらもEF50mm f/1.2Lの開放。

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EF50mm f/1.2L, f/1.2, 1/320 sec, ISO100

この湿り気も実に好ましいんですが、3000万画素というのは、決して低画素数ということではないものの、5DSの5000万画素超というところを通過してきた今となっては、気のせいではあるんでしょうが、何というか丸まった感じがして、これもまた一つの味わいとなっている感があります。今回は一台だけ持って歩きながら撮る、ということだったので直接の比較はしていませんが、細かい描写力が活きるような被写体で同条件で撮り比べてみるのも楽しそうです。

 

ということで、他の方にとって多少なりと参考になるかどうか分かりませんが、JPEGでの街撮りのサンプルでした。

ちなみに5D Mark IVは5DS Rと比べるとメーカー公称40gも軽く、同じバッテリーで200枚余分に撮れ、GPSとWiFiまで備えてますので、散歩がてらに持ち出して街撮り、という観点では結構な優位性があります。WiFiでタブレットなりスマホなりに転送してJPEGをそのままどこかにアップする、という使い方だと、前述のカメラ内補正もかなり重要になってくるので、そうした用途がメインの方なら乗り換えは全然アリかなという気がします。

 

[camera] EOS 5D Mark IVのDPRAWによる解像感補正

EOS 5D Mark IVは、5D系としては初めてデュアルピクセルCMOSセンサーを搭載し、同じく初めて搭載されたタッチパネルとともに、ライブビュー/動画撮影時のオートフォーカスを新次元に持ち上げているのですが、さらにこのデュアルピクセルCMOSを活用して、DPRAW(デュアルピクセルRAW)という記録形式をサポートしています。

このDPRAWはセンサーの各画素からの情報をそのまま記録するRAWフォーマットに加えて、デュアルピクセルによる情報も合わせて記録するフォーマットということで、ファイルサイズもざっくり2倍程度(30MB前後→60MB前後)になるのですが、それを使うことにより、RAW現像の段階で

  • 解像感補正
  • ボケシフト
  • ゴースト低減

という3つの新しい画像調整ができるようになっています。

中でもやはり「解像感補正」というのが個人的に一番気になっていたわけですが、キヤノン公式サイトのDigital Photo Professional 4での対応の説明によれば、

解像感が低い印象の画像を改善。被写体の奥行き情報に基づいた「解像感の微調整」が可能です。スライダーで、シフト量(奥から手前)、効果の強弱を調整できます。撮り直しのできない画像の解像感を高めたいときなどに有効です。

※調整後はややノイズが増加します。

とのことで、けっこう夢が広がる記述になっています。撮影後のフォーカスシフトみたいなことができるのだとしたらそれは大変なことですが、その一方、画素1個の半分程度の差しかない差分情報でどれだけのことができるのか、ということを思うと期待はある程度絞ってかかった方がいいような気もするわけで、やはりこれは実戦投入する前にしっかり確認しておく必要があるでしょう。

 

ということで、ちょっとサンプルを撮ってきました。「石垣のクローズアップ」という面白みのない素材ではありますが、何かの参考になれば。

 

まずオリジナルの画像がこちらです(クリックすると原寸画像が開きます)。ちょっと暗くなってしまっていたのでISO800なのが残念ですが、とりあえずフォーカス部分とそこから外れていくところは分かりやすい素材かと思います。

straight-output

で、これをDigital Photo Professionalで加工してみます。DPRAWの操作はツールとして独立していて、別画面が開きます。

DPRAW Zoomed in.pngフォーカス部分を等倍拡大した状態です。この時点では無加工。ここからまずBack方向(奥)にシフトしてみます。強度はデフォルトの5。

DPRAW Adjusted Back 5.png
Digital Photo Professionalによる解像感補正: Back方向

逆にFront方向(手前)に同じく強度5でシフトしたのがこちら。

DPRAW Adjusted Front 5.png
Digital Photo Professionalによる解像感補正: Front方向

非常に微妙な違いですが、よく見ると確かに解像感が変化します。それこそ公式サイトのサンプルにあるように、「瞳とまつ毛」といったような主観的印象を大きく左右するような被写体であればそれなりに違って感じられる、ということはあるでしょう。

その一方、キヤノン自身がこの機能をフォーカスシフトとかそういう呼び方ではなく「解像感補正」と呼んでいること、特に「解像感」の「感」という文字を選んでいることには相応の意味合いがあるわけで、最初からこれを頼りにするよりは、前述の公式の解説通り「撮り直しのできない画像」について最後の手段というか「せめてもの試み」的な意味合いで使ったり、最初から95点で撮れている写真を97点、あわよくば98点にするための最終調整として利用するのが正しい使い方なのではないかと思います。

参考までに、最終的にこの補正を加えてJPEG出力したものを貼っておきます(それぞれクリックで原寸ファイルが開きます)。ビューアーとかで最初のオリジナル画像とまとめて開いてパラパラと見比べると違いがよく分かるかと思います。

Micro adjustment Back.JPG
Back方向シフト(強度5)
Micro adjustment Front.JPG
Front方向シフト(強度5)

 

この「解像感補正」含め、DPRAW独自の機能については今のところ純正のDigital Photo Profossionalのみの対応ですが、Adobeも対応するのではないかという噂もありますのでその辺りも期待して待ちたいと思います。 (そもそも本日2016/9/11時点では5D4のRAW自体、Lightroomでは扱えないのですが…)

 

[movie] 写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと

Saul Leiter

トマス・リーチ監督による、写真家ソール・ライター本人に対する取材・インタビューで構成されたドキュメンタリーです。2011年から撮影されていたようですが、映画の公開後ほどなく、2013年、ソール・ライターは89歳で亡くなっています。期せずして、偉大な写真家の晩年の姿を捉えた作品になってしまったわけです。

タイトルに「13のこと」とあるように、全体を13幕に区切って、それぞれのトピック、テーマでソール・ライターとの対話や、彼と街を歩いたり、プリントを委託しているギャラリーを訪れたりするクリップをまとめているんですが、やはり何といってもところどころに挿入されるソール・ライターの作品が実に素晴らしくて、その時点でもう満たされてしまいます。黒いスクリーンに彼の作品の、ピンクの傘などの鮮やかな色彩が非常に印象的でした。ちょうど『キャロル』を観てきたところでもあり(同作の監督トッド・ヘインズ自身が、自作とソール・ライターとの関わりについて幾つかのインタビューで述べています)、予感のような期待を抱いていたわけですが、なんというか「『キャロル』の美しさの源流のひとつ」のような作品群について、ライター自身が語る言葉を聞いていると、「ガラスの向こう」の奥行きだけでなく、反射として写り込んでいる「こちら側の世界」であったり、その隔てられた視点であったりといったいろいろな要素について、理解の解像度が上がったり、感覚の抽象度が上がったりするような気がしてきます。

もうひとつ印象的なのが、ソール・ライターという人の「語り」そのものです。実に理知的に、破綻なく、滔々と、それでいて即興的に語り続けるんですね。広く深い語彙の中から言葉を「正しく」繋ぎながら、その場のひらめきの中でふわふわと空中に浮かんだ「何か」を捉えようとするという語り口というか。本当に思いつきで、何を言うつもりという事前の意図を固めずに話し始めているように見えるんですが、つらつらと語りながら、きっちり文章を文章として整合させつつ、何かを捕まえて着地する。ソール・ライターは皮肉なユーモアの持ち主でもあるんですが、その一方、確固とした姿勢を貫きながらファインダーを覗き続け、世界を見据え続けてきた人だけが辿り着く、ひとつの境地が滲んでいるような語りでした。たとえば彼がしゃべっているのを2時間聴く、というだけでも十分に作品として成立するんじゃないかというレベルです。

あと、彼を取り巻く「環境」もあれこれと取り上げられているんですが、アシスタントであるマルギットや飼い猫のレモンも、ある意味「散らかりまくったガラクタ積み上げ放題の部屋」すらも奇妙に美しく、やはりこういう人の周りには、やはり自然と絵になるものが集まるということなのか、実に魅力的で、ドキュメンタリーである本作に極めて映画的な魅力を添えています。

で、本作の「映画的」な魅力というところでいうと、もうひとつ。彼の人生上のパートナーであった「ソームズ・バントリー」の存在と、彼自身の家族や生い立ちの話があります。

自身が撮影者でありインタビュアーであるトマス・リーチはその2点について、ソールが自ら語る以上の言葉を引き出すことをしていません。ここではその内容については触れませんが、この2点があるがために、「皮肉っぽいけれどユーモアにあふれた、温和な老人の一人語り」の背後に、黒々とした大きな空洞がぽっかりと口をひらいていきます。写真家としてのキャリアを確立し、「過不足ない人生」を送り、そしてそれを静かに閉じようとしている老人が、自分の冗談で思わずくすくす笑うときのその笑顔が、具体的には描かれない「それ」を受け入れた上でのものである、ということだけが、事実として観客に提示されるわけです。最近改めて気づいたんですが、こういう「描かないことで描く」「欠落による暗示」というのは、けっこう個人的な好みにはまるんですね。

もちろん最初に挙げたソール・ライターの美しい写真と、彼本人の魅力的な語り口、というのがこの作品自体の魅力として際立っているのは間違いないんですが、監督であるトマス・リーチの存在が、この作品をそれだけ切り出して貼り付けたものでは終わらせずに、強い映画として観客に迫るものにしていると思います。

とまぁ、映画は実に素晴らしかったんですが、劇場になぜか猫のトイレの臭いが漂っていたのが唯一の難点で。とりあえずあれだけ散らかった中で猫を飼っているソールの部屋もこんな臭いだろうなぁと考えることで臨場感を増す方向でその場は解消したのですが、一体あれは何だったのか…

[movie][camera] 『キャロル』に出てきたカメラ

ちょっと脇に逸れますが。

『キャロル』でルーニー・マーラが演じているテレーズは、デパートに勤めつつも、密かに写真家に憧れている、という女性で、彼女が自分のカメラで撮影したキャロルの写真は作品全体の中でも重要なモチーフになっているわけですが、ちらっと映るそのカメラが、ルーニー・マーラの手に中にあるせいなのか、何とも魅力的です。

Therese with Argus

 

ということで、ちょっと調べてみました。

まず、最初からテレーズが使っているカメラ。

argus-c3

これは、1939年にArgus社から発売された同社Cシリーズの3モデル目で、比較的安価だったことと「レンガ(Brick)」の愛称の元となったそのデザインによって人気を博し、27年にわたるロングセラーとなったものです。映画の舞台が1950年代なので、当時はまだ現役のモデルです。当然ながら完全にマニュアルで、劇中でのテレーズの取り回しもなかなかぎこちない感じだったのが印象的ですが、実はこのカメラの後期のバージョン違いが、ハリー・ポッター・シリーズにも出ていたりします。

Argus C3 in Harry Potter

ちなみに今買おうとするとヤフオクとかでは3000円から5000円といった辺りで出品されているようです。(eBayも同じくらい)

安価モデルというだけあって扱いはややこしそうなのであまりお勧めはしませんが、個人的にはちょっと欲しい気もします。何の話だ。

で、さらに、キャロルからテレーズへのクリスマスプレゼントとして贈られるのが、キヤノンIIIaです。こちらは1951年の12月に発売されたモデルで、舞台となっている1952年時点ではキヤノンのフラッグシップ機でした。

canon_IIIA_1

こちらは今買おうとすると状態によってピンキリで1万円から7万円といったところでしょうか。ヤフオクではあまり出品がありません。

ちょうどこの頃、日本のカメラメーカーも徐々に足場が固まってきて、世界に打って出始めた時期なのですが、この後、ライカから当時としては決定的な競争力を持ったライカM3が登場し、本格的な開発競争が始まっていくことになります。

まぁ本当に、だからどうした、という感はあるわけですが、テレーズが永遠に残すことを願ったそのひとつひとつの瞬間を実際にフィルムに焼き付けた機械と同じものが今現在でも入手可能であり、当時と変わらぬ動作をする、ということには、実に魅力的な不思議さがあるような気がします。同じものを持って、同じような思いを胸に、同じように何かを願ってファインダーを覗いてみる、というのも、映画のひとつの楽しみ方なのではないか、と無理やりまとめつつ、eBayの出品をひとつひとつチェックしているところです。

[photo] in and out of years / Akiyoshi-dai

_DSR7868(Canon EOS 5DS R + EF35mm f/1.4L II USM, 1/8000 sec at f/1.4, ISO100)

年末年始は山口県に帰省していたわけですが、ここ数年、実家に戻るたびに秋吉台に足を運んでいます。2億年以上前には海の底で、長い年月をかけて形成されていった石灰岩の地層によって成立した「カルスト台地」という地形で、人の手がほとんど入っていない一方、大きな樹木が自生しないために延々と草に覆われた中、まばらな潅木・低木とむき出しの白い石灰岩が点在する広大な丘陵地帯という、非常に特徴的な場所です。

夏場は一面が緑に覆われたそれは爽やかな景観なのですが、冬場は見渡す限り枯れ草という非常に佗しい光景で、かつ観光客もほとんどいなくなるため、ちょっと大げさに言うとこの世の果てに来たかのような上質の寂寥感が味わえます。ハイキングロード的な道が開いてあるのですが、駐車場から10分も歩けば、誰もいない、踏み固められた道を除けば人工物も見当たらない、といった状態で、他の場所では簡単には味わえないレベルで文明世界と断絶することができます。ある意味、極上の娯楽です。

a bliss of being alone(Canon EOS 5DS R + Sigma 20mm F1.4 DG HSM | Art 015, 1/2000 sec at f/1.4, ISO100)

この冬は気候も穏やかで、心細くなる程度には空気は冷たく、さりとて生存が脅かされるほどには寒くない、といった感じで、西日にもわずかに暖かさが残っていました。

モノクロで撮っていこうかと思ったんですが、せっかくの微妙な温度感を尊重して、カラーのままで。ちなみにこちらはSIGMAの20mm Artの開放ですが、この遠景のボケが好みに完全にはまっています。個人的には、明るい広角はこうでなければ、という感じ。

_DSR7359(Canon EOS 5DS R + Sigma 20mm F1.4 DG HSM | Art 015, 1/5 sec at f/1.4, ISO100)

同じく、20mm Artの開放です。日暮れ後、三脚を使って撮ってます。このレンズ、周辺も程よく落ちてなかなか深い色を出してくれます。

今回はあまり夕焼けの赤には恵まれませんでしたが、訪れる度にその都度、撮りたいものがあって、ここは本当に、毎年通っても飽きません。

しかし、この秋吉台、近年は地元の人手不足ということで、草地のメンテナンスのために欠かせない「山焼き」の規模が縮小していて、徐々に荒れてきているそうです。まぁ人為的な処置のない「自然」に還っていくことを「荒れる」というのが適切かどうかわかりませんが、今後どうなっていくんでしょうかね。自然破壊ということではないので、別にそれはそれで構わないのかもしれませんが。

[photo] in a life that is not mine

homebound(EOS 5DS R + EF35mm f/1.4L II USM, 1/4000 sec at f/1.4, ISO 100)

帰省時の写真をもう少し。今回、飛行機で帰るということで、久しぶりに羽田モノレールに乗りました。昔は羽田といえば大体このモノレールだったんですが、やはり他の交通手段より、少し「楽しい感」があります。

a tentative life(EOS 5DS R + EF35mm f/1.4L II USM, 1/640 sec at f/1.4, ISO 100)

関東に住んでいる期間の方がもう長くなってしまっているので、地元とはいえ、もはや「自分のホーム」という感覚はなく、台所に何気なく置かれたコップなんかも、外向きの視点で見つめてしまうような状態です。いろんなものが混じった感懐。

living beside(EOS 5DS R + EF35mm f/1.4L II USM, 1/125 sec at f.1.4, ISO 100)

日常を日常ではないものとして眺めるのは不思議なものです。

used to belong(EOS 5DS R + EF35mm f/1.4L II USM, 1/5000 sec at f/1.4, ISO 100)

通っていた小学校は、かつて運動場だったところに校舎が、校舎だったところに運動場が、というドラスティックな改築がされていました。面影ゼロです。

 

[photo] EF35mm F/1.4L II USM


(1/250 sec at f/1.4, ISO 100)

※今回は特に断りのない限り、EOS 5DS R + EF35mm F1.4L II USMで撮ったRAWファイルをLightroomで後処理なしで素現像したものです。

EF35mm F1.4L II USMは、2015年9月に発売された、5DSシリーズ発売後の最初のLレンズですが、高解像度対応よりもむしろ「BRレンズ (Blue Spectrum Refractive Optics)」搭載を謳っていた印象が強く残っています。いわく「大口径レンズに発生しやすい色のにじみ(色収差)を大幅に低減し、撮影画面の中心から周辺まで優れた描写性能を実現」(キヤノン公式サイトの製品ページより)とのことで、光源の描写やボケが一味違う、という売り方。ある意味、ニコンの58mm f/1.4に通じるマーケティングという気もします。

ちなみに、公式にはもう一つ、製品紹介のページがあります。

一枚目、ボケ味もさることながら、銀色の鈴の金属面の描写が超好みです。これはヤバい。

    (1/320 sec at f/1.4, ISO 100)

うちの地元の辺りはもうすっかり過疎化が進んでしまっており、近所にも空き家が目につくのですが、潮を含んだ風の強い海辺ということもあって、寂れ感が半端じゃありません。気のいい年寄りしかいない地域でもあるので、落書きだの割れ窓だのといった人為的な荒れ方はしないのですが、雰囲気はずいぶん変わってしまいました。

 (1/1250 sec at f/1.4, ISO 100)

近所の神社には日本海沖で見つかった巨大な珪化木がご神体として祀ってあります。よくこんなものを海中から引き揚げたものだなと思うんですが、それはさておき、石化した木の表面の質感だけでなく、ほぐれた藁の柔らかい解像っぷりが、これまた超好みです。

(1/ 250 sec at f/1.4, ISO 100)

水盤に榊の枝。うちの地元の辺りでは神社にお参りすると大体、賽銭箱の右手側に丸い水盤があって、榊の枝が水に浸してあります。お参り前に雫を頭にふりかけると頭が良くなるとか言われてました。

(1/320 sec at f/1.4, ISO 100)

漁師町の神社なのでそれ系の神様の神社だと思うんですが、なぜか天狗面も祀ってあって、天狗のキーホルダーが売ってあったりします。極めて適当な感じで。EOS 5DS Rはこれまでのモデルと比べるとシャドウ部分のトーンの扱いがずいぶん改善した気がします。ダイナミックレンジ云々以前に、ノイズで荒れまくっていたんですが、センサーの性能なのか画像処理なのか、はたまた単純に粒が細かくなったからなのか、その辺はかなりよくなりました。

35mmという画角が元々あまり好みではなかったのですが、とりあえずこのレンズは非常に気に入っています。性能云々というところはあまりチェックしていないのですが、定番系のレビューはこちら。

 

あと数枚足して、Flickr上にAlbumにしてまとめてありますのでよろしければそちらもどうぞ(EF35mm F1.4L II USM @ lenslet blog on Flickr)。